(伝)隋人「出師頌」 の出現


2003/06/13, 2005/3/08図版追加


北京故宮博物院の「出師頌」サイト

再発見

北京 嘉徳の2003年7月13日のオークション(昆ロン飯店)に 満州国崩壊以来行方不明になっていた、「伝)隋人書;出師表」 がでるかもしれない。乾隆コレクションのひとつで三希堂法帖にもとられている。戦前の写真図版はモノクロだから、カラーの精密な写真がでるのは喜ばしい。 SARSのせいで、北京にいく人は少ないだろうが、こういうものは従来の例では中華人民共和国国内の博物館が強引に買う場合が多いので、そのうち観る機会もあるだろう。
勿論、精密なレプリカという可能性もある。フリーアの「秀野軒図巻」のように絵はもとより印・題記までそっくりにつくられると、小さなカラー図版では区別できない。二点比較するならまだしも、一点しかない場合は無理である。乾隆コレクションの現物だと仮定すると、大きな発見だと思う。嘉徳 始まって以来の快挙ではなかろうか?
2005/03追記: 結局2,200万元という高額で北京の故宮博物院が買ったようだ。そのおりには、 西晋の索靖の真跡で中国で一番古い書だというふれこみだったので、(おいおい米友仁の跋は無視かよ)後で「偽物に高額を払った」という愚かしい非難が湧いた。

現物と歴史。

皮紙というから雁皮紙のようなものだろう、21x29cm。墨書。草書。 書いた人のサインなし。 南宋初めの紹興九年に米フツの息子米友仁が、隋賢出師頌 と鑑定書きを後ろの紙にやっている。この米友仁の書、まあまとものよう。
前には「晋墨」という篆書の題字があって、これは「龍箋」というから龍模様のある紙 にらしい。左下に花押があり、南宋の高宗の書だと主張する人もいるが、高宗が篆書を書いたとは信じ難い。
押されている蔵書印は、かなり古そうなものが多く、ひどい偽印はないように見える。
1676年ごろに骨董商の呉其貞が記録していて(書画記 第四巻)「唐人の書だ」といっているが、なかなか鋭いと思う。 パリのBiblioteque NationaleにあるPelliotが敦煌で収集した 経巻や台東区立書道博物館 の収集のなかにはこれに似た書風の草書の仏教経典がある。 パリの妙法蓮華経明決要述第四(Pelliot Chinois 2118)が一番近そうだ(ref.敦煌書法叢刊 第25(二玄社))。 台東区立書道博物館の所蔵分では、法華玄賛義決が比較的近い(ref. 書エン(三省堂)vol7 no.2)。 ACE753年の年号がはいっているものが、この一群の草書経にはあるので、 他もそれに前後するものではないだろうか? 一方、後述する、やや似た索靖「出師頌」と称する書の写真影印本が残っていて、 書風は違うが、やはり草書で行立てがまったく同じ(こちらは現在行方不明)。 これから考えると、 ある程度古い「出師頌」の原本が八世紀まで残っていて、それを臨写・模写したもの のうち 二本が一九二〇年代まで残っていたと考えるほうが妥当だろう。原本を書いた人が だれなのかははわからない。
二点とも、索靖(ACE239-303)の書だという伝承は16世紀ぐらいからあるようだが、 根拠がなく、すぐには信じ難い。蕭子雲(ACE487-549)という説もあったようだ。いずれにせよ7世紀以前の書だと思われていたのである。
嘉徳にでたほうは、(レプリカではないと仮定して)、 清の宮廷に18世紀末にあって。 阮元が石きょう随筆に記録している。
ラストエンペラーが、弟の傅傑に下賜した形式で大量に北京から もちだした書画の一部のようだ。 北京の写真屋・出版社:延光室が写真焼き付けを民国一五年ごろ売っていた。「隋人書出師頌 一尺2 二張り 弐圓」 (ref. 蘇文忠書前赤壁賦(故宮),の末尾)
日本で1937年に発行された支那墨跡大成(手巻1)に掲載。右上に部分拡大をあげたのは、支那墨跡大成からとったものだ。これは北京の延光室が撮影して売っていた写真焼き付けをもとにしたもののようだ。網版で、それほど明晰ではないが、まあがまんできる程度の印刷だ。 西川寧博士が、「隋写とは定め難いが、これは見事な眞蹟である」というのは実物をみたのだろうか?写真で判断したのだろうか?
その後、なぜか行方不明だった。

第2の「出師頌」

もう一点「出師頌」がある。 こちらは、現物は今も行方不明で、 商務印書館で出版した影印があるだけだ。香港の雑誌「書譜」 の付録でも複製されていたが、これは商務印書館本からの再印だろう。 蔵印を信じれば、12世紀には宮廷にあり、16世紀には 有名な文人文彭(1498-1573)のもとにあり、文は10数篇の跋文を書いている。 1920年ごろには陶蘭泉という有名な収集家のところにあり 、そのとき印刷された。
紙がかなり傷んでいるようだ。また繊維がめだつ紙のようだ。いわゆる麻紙だろうか? 書風は、よくいえば古拙で、悪くいえば下手にみえる。 かなり古風な感じがするが、果たして4ー5世紀のものだといえるだろうか? 前述8世紀の敦煌の草書経でもかなり違った書風もあるので、 あまりもう一本と変わらない時代のものかもしれない。

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出師頌 墨跡本 左半

出師頌 墨跡本 右半 

出師頌 合装されている拓本 左半

出師頌 合装されている拓本 右半


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