ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展感想(2005/4/17)
2005/4/17
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展は、3度ほど鑑賞できたので、改めて、通してコメントしておく。
西洋美術館のサイト
まとめ
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傑作は、「聖ヨゼフのまえに現れる天使」「のみを捕る女」の2点。
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展示替えは無し。
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展示環境・光線はそう悪くない。
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同じロレーヌの画家として、ジャック=カロの版画が展示されていた。
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カタログは、とても気合いが入った文章が多く、読めるカタログである。
感想
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「アルビの十二使徒」は、一度、もっと小さい額か大きく
周囲を覆う額に、はめられていたのではないだろうか? いずれも周囲8cmぐらいに折り目のような線がついている。調査ではキャンバスを継ぎ足したのではないということなので、上のように推理した。
西洋美術館が購入した「聖トマス」は結構いいほうだと思う。横浜でみたルーブルの「聖トマス」より良い。
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「聖ヨゼフのまえに現れる天使」は、やはり肌寒くなるような作品。右上端にあるサインをみてみたが、かすかにしかみえなかった。
天使の衣装は東欧の民族衣装のような感じがする、あるいはユダヤ系の衣装なのだろうか?
蝋燭の下の鋏は芯を切るためのものだが、リアルで影もテーブル
に落としている。
天使の姿勢や指、耳の位置など解剖学的にはかなり無理がある。
左手はどう曲げているのか理解に苦しむし、左手の指は、それだけみるとかなり不気味である。それらの不安さを含めて傑作だ。
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「のみを捕る女」は,マイヨールを思わせる肉体表出である。蝋燭の炎がまったく揺らいでいないのは、
しっかり閉めた密室にいるからだろう。
下着は、質感豊かに描かれているが、絹か上等なリネンのようにみえる。それからすると、中流以上の階級の女性であろう。また、右足の向きが少し前にむいており、ストゥールに座った姿勢としては奇妙な感じがする。ラ・トゥールの作品には、常にこの種の体制の不安定さがあって、おそらく意図的なものではないかと思う。また、精密に描きたいところだけを精密に描く画家のような気がした。
他の部分は平塗りしてしまうようだ。
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「聖ペテロの涙」(USA クリーブランド美術館)は、写真図版では、少し滑稽でつまらないものにしかみえなかったが、実物はとてもよいものだった。ランタンの上部の銅板の質感、ランタンに照らし出されて透き通った意外に薄い黒衣の感じなど、興味深い。
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「聖ペテロの否定」も小さな図版では、つまらないアトリエ作にしかみえないのだが、実際はそう悪くない。サラチーニの同主題
のものを思い出した。特に左端の女性の描写が良い。
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「いかさまカルタ」(ルーブル)は、大変綺麗な絵で、キンベル美術館にも同じ図柄の絵がある。
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「旅楽士の喧嘩」(シャンベリー)は、 模作とされていて、ポールゲティ美術館(USA、カリフォルニア)所蔵品が真跡ということになっている。しかし、この作品も結構面白い。衣服や楽器が、オランダのダウの作品のような精密描写で、みどころがある。笛吹の皮の上着、
や笛の描写は、特によくできていると思う。
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「聖フランシスの法悦」は良い絵だが、スペインの作品のようにみえた。
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「マグダレーナ」(テキサス)は、20世紀USA の作品のようにみえた。17世紀のものだとしたら、よほどひどい補筆が
はいっているのだろう。
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「金の支払い」(リボフ美術館、ウクライナ)は、全く異質で、ヘームスケルクなどの、フランドルバロックの作品のようにみえる。
仮にラ・トゥールの署名が本物だとしても、これは別人の作品の模写だろう。
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「マグダレーナ」に、有名作の出品がなかったのは、主催者が漏らしたように「アメリカの美術館からあまり協力してもらえなかった」からだろう、ロスのものか、Faviusのマグダレーナを借りるつもりだったのではないだろうか?
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カタログで、各作品毎に詳細なデータと伝世経路、文献目録がフランス語で書いてある。これは、大変貴重な資料である。フランス語でも固有名詞ばかりだから、さして問題ではあるまい。
また、部分拡大写真が多く、ありがたい。全体図は結構他でもあるからである。
科学分析レポートまであり、まるで論文集のようである。