エーデルヘーレ祭壇画の外翼グリザイユについて



エーデルヘーレ祭壇画

プラド美術館 十字架降架 

エーデルヘーレ祭壇画 外翼グリザイユ

ステーテル美術館 グリザイユ ロベール=カンパン

エルミタージュ美術館  ロベール=カンパン?

2006/10/24

ルーヴァンのシント=ピーテル聖堂にあるこの祭壇画は、ロヒール=ファンデア=ワイデンの確実な傑作:プラド美術館所蔵の「十字架降架」の原型を伝える古いコピー、まだ絵がルーヴァンにあったころに製作された極めて早期のコピーとしてだけ有名であるが、実際にはもっと複雑な問題がある。

祭壇画の基本データは、次のとおり、
1443の年紀が入っている。
油彩。基底材はオーク板, 100 x 105 cm (中央), 105 x 53 cm (両翼)
Sint-Pieterskerk, Leuven

まず、エーデルヘーレ祭壇画は大きさがプラドの十字架降架よりずっと小さいので、直接の模写ではないだろう。更に問題なのは、 あの大きなプラドの十字架降架が、このエーデルヘーレ家のカペラに入るだろうか?ということだ。全く無理である。プラドの作品は、もともと、この聖堂とは別のノートルダム聖堂(現在は存在しない)用だったらしい。
プラドの十字架降架はルーヴァンの射手組合の寄贈であるが、エーデルヘーレ祭壇画は、もともとルーヴァンの名家であるヤコブとマリアのエーデルヘーレ一家のための作品なので、一家を描いた両翼内部はロヒールの原型とはかなり違っているだろう。

両翼の裏はグリザイユになっている。ひどく剥落してはいるが、なんとか図様を読み取ることができる。右は、聖母をささえる聖ヨハネ、左は、キリストをささえる父なる神と下に二人の天使という図象である。後者は、フランクフルト・ステーテル美術館の「フレマールの画家」(現在では学者は、トルネ在住の画家ロベール=カンパンと推定している人が多い)とされる絵画に、天使を除きよく似ている。石に刻まれた銘文まで同じである。また、エルミタージュ美術館にある「三位一体」は、彩色画であるが、更にこのグリザイユに似ている。これもロベール=カンパンに最近は帰属されているようだ。この現象が発生するためのもっともらしい理由は3つ考えられる。

  1. もとのロヒールの十字架降架の外側がステーテルのパネル、エルミタージュのパネルに似ていた可能性。これは一番もっともらしい。ロヒールはカンパンのもとで働いていたのだから、同じ図象を受け継いでいてもなんら不思議ではない。これは、ロヒールとカンパンの直接的な図象継承を示すよい例だと思う。
  2. この画を描いた画家がトルネのロベール=カンパン(あるいは、少なくともステーデルの絵を描いた画家)と同じアトリエにいて下絵も持っていた場合。たとえばジャック=ダレがそうである。 アラスの祭壇画から推測できるダレの作風とは、かなりかけ離れているようにみえるが、トルネに他の画家がいなかったとはいえない。
  3. ロヒール=ファンデア=ワイデンが、ステーテル美術館・エルミタージュ美術館の作品を描いた。カンパンに帰属している現在の鑑定は誤っている。
 ただ、ロヒールの人気の高い作品を模倣するという注文は、もともと注文主のほうから出ていたのではないだろうか?  画家の手抜きだとすると同じ町に原作があるのだからすぐばれ、注文主からクレームがつくだろう。同じ町にある有名作品なのだから、それと同様なものが欲しいというのはもっともであり、当時の画家はそういう要望にもよく答えたと思う、そうだとすると、両翼内部の寄進者像を除いて、他はすべて縮小コピーしたと思う。もしそうだとすると、1の推論がより妥当となり、この両翼のグリザイユは、
カンパンの作品ー>ロヒールの作品ー>無名画家の模写
の順に模倣・コピーされたものと考えても良いと思うし、プラドの十字架降架の失われた翼部を想像する材料に使ってもそうまとはずれではないと思う。
参考文献
  1. Martin Davis, Rogier van der Weyden, 1972,London
  2. Dirk de Vos, Rogier van der Weyden, 1999,Antwerp

2007/04/16

追加 三位一体の類似図像・彫像について

エーデルヘーレ祭壇画やフランクフルト、エルミタージュにある、父がイエスを抱きかかえる形の三位一体図像は、彫刻をトロンプルイユに したような感じがあるが、意外に例が少ない。ずっと時代が降ったエルグレコの聖三位一体があるくらいである。他は大抵は、十字架にかかったイエスを後ろで「父」が支える形だ。例えばアルブレヒト=デューラーの「聖三位一体の礼拝」(ランダウアー祭壇画、ウィーンKunsthistriche),マサッチオ「聖三位一体」などである。
エーデルヘーレ祭壇画から30年ほど後になるが、1470年ごろ、ゲントで制作された細密画に、マーガレット オブ ヨークが、まさにその形の彫像に礼拝しているようすを描いたものがある。ブリュッセルの王立図書館所蔵のTraites de Morale(道徳教本?)の写本挿絵である(Ms.9276-6) 横25cmぐらいの挿絵である。当時、こういう彩色彫像があって個人的礼拝に用いられていたことが解る。CliCKすれば、挿絵全体を表示する。
参考文献
  1. Bibliotheque Royal e a bruxelles, La Siecle d'Or de la miniature flamande, 1959, Bruxelles

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