クロイスターズ--The Cloisters--


古美術を現代に活かす

New York Metropolitan Museum の分館The Cloistersに最初に関心をもったのは、「メロードの祭壇画」を所蔵し、展示している美術館としてである。ロヒールの師 ロベールカンパンとも推定されている通称「フレマールの画家」の代表作のひとつである。ファン=アイク兄弟とともに西洋油彩絵画の先駆であるだけでなく、特異な美しさをもつ。ロヒールやファン=アイクに興味がある私は、チェックした。同時に辻成史の記事「ザ・クロイスターズの『メロードの祭壇画』」(芸術新潮、1973、12月号、76p)を読んだ。「ロマネスクやゴシックのチャペル、廻廊などをそっくり買い取り、それらを、このハドソンの流れを見下す丘の上にたくみに組み合わせて美術館とした。」というのは、いかにもアメリカらしい物凄い事業だと反感と脅威すら感じたものである。一方、なかなか静かな環境らしいことには、好感をもった。次に、古い録音だが、ノア=グリーンバーグ翁がNewYork Pro Musicaを率いて、13世紀ごろの聖史音楽劇「ヘロデ物語」を演奏・録音したとき、会場にここクロイスターズのチャペルを借りた。これもいかにもアメリカ的だと思った。サイトをみると、今でもときどきコンサートが催されているようだ。
そんなんで記憶に残っていたので、友人がニューヨークを訪ねるとき、どこが面白いかと聞いたので、クロイスターズを推薦しておいた。なにしろ私自身いってもいないのに推薦するのだから無茶な話だ。友人は美術よりもクロイスターズまで行く道筋に様々な階級の人々が住む町をみて貴重な経験だといっていた。今では健全になったとはいえ、ハーレムを通ることになったから。そのときは、クロイスターズの最新のガイドブックをおみやげにもらった。
最近読んだ、ホーヴィングの「にせもの美術史」, 朝日新聞社, 1999の中では、ホーヴィングの専門が中世美術で、メトロポリタンの館長であった人だから、クロイスターズがしばしばでてくる。しばしば登場するロリマー館長は、実はクロイスターズ建設の当事者の一人だった。ホーヴィングの著書では、三枚目のような役柄であるが、私が読んだ著書では、堅実で良心的、有能な学者ぶりをみせている。

参考サイトをいくつかあげる。クロイター自身の美観はこちらでみて欲しい。頻繁にでてくる四角な塔は、Cuxaの塔を模写したもので、玄関ホールの上にある。入場料が大人10ドルだそうで、ヨーロッパの水準ではかなり高めである。アメリカの豊かさの表れだろう。

  1. USA滞在者による案内  
  2. Metropolitan MuseuMのCloisters Guide(英文)

最近、幸いなことに,ロリマーが主に書いたクロイスターズ完成直後のガイドブックThe Cloistersを入手した。1938年発行だから、1957年に、50〜100万ドルで入手したメロードの祭壇画は、まだ入っていないが、なんといっても、どのような方針で計画設計したかという記述が興味深かった。奥付けをみると、五月に初版一万部、七月に再版一万部、十一月に三版一万部を刷っている。手元にあるのは、その三版なのだが、かなり堅めのこの本にしてはおそるべき売れ行きだと思う。これを部分的に訳出することにする。読むと自明なのだが、ここの建築は移築というよりは、再現したものの要所要所にオリジナルの建築部分や彫刻をはめこんだような構造のように思われる。一部のサイトでは、建築物以外の小型の美術品はクロイスターズ開設当初にはなかったような記述があるが、誤りである。この本にも多数記述されている。
日本在住の私が、中世建築をみるのなら直接欧州にいったほうがよく、たとえ少々荒廃していても「現地」の魅力があるだろう、と思う。だから、クロイスターズを初めとしてアメリカの美術館にはまったくいっていない。もっともハーバードのウィンスロップコレクションの中国古代美術とここクロイスターズは、アメリカで最もいってみたいところである。
クロイスターズで興味をもったのは、広義での展示方法であり、テーマパークの手法であり、大きくいうと中世の再現の技術的可能性である。


建築( p)


ロックフェラー3世の資金提供により、New York Fort Tyron Parkに静かで、文化的なスポットをつくること、そして、後の頁で記述する古美術コレクションを展示することが目的である。
この建築物は、特定の中世建築をコピーしたものではないし、複数の建築物を合成したものでもない。12世紀から15世紀の建築物断片を軸として発展させたものである。それらは、St. Michel de Guiehm des Desert,Cuxa, Trie, Bonnefort、の修道院からのものである。Cuxaの復元された塔とCloistersが、この博物館の中心である。塔のひとつはなおCuxaに建っている。
南西部分にあるゴチックチャペルはカルカッソンヌとMonsempronの一三世紀のチャペルを模範とした。計画進行中に多数のゴシックやロマネスクの建築断片が集まってきた、Pontautからの事務棟、Langonnからの合唱席、30点の玄関や門の断片、ステンドグラス、それらが、建築の一部に取り入れられている。古美術を本来の用途でないところに使って装飾的効果をだすことは、しばしば行われているが、この美術館の目的に沿わないので、The Cloistersでは避けている。修復も、できるだけ避けている。もちろん、材料が露出したような古美術の場合、修理が必要ではあるが、古いものと新しいものを調和させようとする試みは、伝世してきた歴史性を不可逆的に破壊してしまう。
めだたない建築によって展示物が映えるものである。背景は中世様式であるが、現代の部分には、最も単純な先例を模範とした。例えば、ロマネスクホールの現代の柱頭は、装飾のない初期のタイプのものを採用しており、深い彫刻のある、Micelle de Saint Jeanの門や三賢王礼拝の群像やからまねたものではない。その上、三賢王礼拝の群像はドアの上の壁龕に置いてある。これは本来安置してあったの高さと思われる位置であるが、それ以外セッチングは行っていない。
New Londonで手で切り出された臼用花崗岩は外側に使われている。その暖かい色合いには、南フランスのような、感じがでる。その強靭な石は、現代ニューヨークの高層建築にもよく使用されている。サイズの基準はCuxaの数マイルとなりにあるロマネスク建築 Cornellia de Conflent の 基準 にあわせてある。Cuxaの磔の多い粗い壁を再現することは現実的ではない。たぶん中世には漆喰で上塗りされていたのであろう。内側の壁はイタリア 、ジェノア近郊産のドーリア石灰岩を使っている。砂鋸できり、加工せず放置すれば、風化した岩の外観をしめし、中世の収集品とよく調和している。彩色は、ほんの少ししか使用されていない。12世紀、Suger僧正の記述[我々は熟練した彫塑家 を統率した。彼らは、高価な鍍金を施した彫刻に飾られた中央扉を建てた。。。。。そのうえ、塔と破風の上部を多彩に装飾した]がある。しかし、時間の作用により、多彩な彩色を失った古美術品にとっては、そのような環境は適当ではない。
赤い屋根と床は、Cuxa  の発掘品をもとにしている。これは南欧の雰囲気を建物に与えている。そして、そこ此処に古い建材を使っている。天井のビーム、ドアのプランクス、窓のガラスなどであり、これらは、展示のための適切な背景となっている。現代の木工、窓ガラス、諸材料は、シンプルなデザインにし、現代の照明用具はめだたぬように配置した。現代建築と中世建築技法の比較、クロイスターズ建築の詳細な材料の記述は興味深い問題であるが、ここでは述べない。クロイスターズにおいて、展示物を検査すること、新しいものと古いものを比較すること、をみせることは、このテーマの研究の良い一歩となるだろう。
The Cloisters は、ハドソン川の断崖に接していて、Mont-Saint-Michelle、 Basel 、Saint Bertrand des Cummingsのような中世建築を思わせる立地である。囲壁は、その内側の庭に駐車場スペースを設けるとともに、雄大な展望を楽しむよいポイントとなっている。庭と、玄関前道路は、もとニューヨークで使われていたベルギーの煉瓦を敷いてある。これはヨーロッパの古い町の街路を思わせるものである。追加した植樹によって、自然景観も演出されている。地中海地方を特徴つけるオリーヴ、いちじく、椰子、ソテツなどは、厳しいニューヨークの冬には耐えられないのは当然だが、The Cloistersの地所の南斜面を覆うcrab-appleの林は、僧院を囲む林を連想させるものである。僧院内部の造園については、記録/情報がまったく不足している。Cuxaと同時代の庭園プランの記録はなにものこっていない。9世紀、Saint GULLの完全な記録はあるが、墓地の庭園に限られる。Cuxaの庭でのアイリスなどの草花は、中世ではセミフォーマルなアレンジであった。リンゴの木はクロイスターズにあったし、現在のSt-Michelle de Cuxa 修道院の壁の内側にもある。
遊歩道はSaint Gallのプランにある中央クロイスターズにヒントを得ている。Trie Cloistersの庭は  シダー、ミルト、アイビーや種種の花を植えた。海外の古い修道院が今もそうしているように。
Bonnefont Cloistersの庭は特別に作ったものである。ここは、中世の薬草園である。設計には特定のモデルはないが、装飾写本の挿し絵、タペストリーや絵画の中の庭をもとにした。ハーブや花にはラベルをつけたので、訪問者は名前を知ることができる。Bonnefont Cloisterで育てている薬草は、中世の本に記述されているものや、ユニコーン タペストリーなどの古美術に描かれているものである。特に参考にしたのは、シャルルマーニュが帝国の庭に植えさせた薬草リストで、812年に書かれ、その後何度も出版されたCapitulare de villis imperialibusである。少しずつ美術館は、より多くの植物で飾られるだろう。


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