花のブリューゲルへの失望


2004/5/25

2004・4・16金にヤン ブリューゲルの花の絵「陶器に活けた花束」をみて、ブラッセルでの失望を思い出した。東京都美術館のウィーン美術史美術館(Kunsthistorisches Museum Wien)からのレンタル展である。ヤンは花の絵の大家として有名だが、本当に感激する花の絵を一度も観たことがない。この作品も、花の絵としては、迫真力に欠ける。同じ上野の西洋美術館に常設展示されている弟子のセーヘルスの作品のほうが遙かに素晴らしい。色が薄くて光沢が無く、質感にも乏しい。陶器の壺もテニエルスのほうが上手いと思うくらいだ。ヤン=ブリューゲルは「花のブリューゲル」とまでいわれているのに、その名声にふさわしい作品はないのだろうか?と長年疑問に思ってきた。
** ヤン ブリューゲルの花の絵の図版 **
以前は、「日本に巡回する展覧会には傑作は貸し出さないので、観ることができないが、ヨーロッパの大美術館にはあるのだろう。」と思っていた。2001年ロッテルダムのボス展を観に欧州へいったとき、ブラッセル王立美術館を訪ねた。そこで、森洋子さんが絶賛していた[黄金盃/花/金貨のある静物]http://www.kfki.hu/~arthp/html/b/bruegel/jan_e/flowers/goldenta.htmlを観て、これはおかしい、この程度じゃ、Daniel Seghersのほうが上じゃないか?こんなはずはない、と混乱した。 ハーグのモーリッツハイス美術館でみた「壺の花束」も壺はともかく、花はたいしたことがない。ここで、私は「ヤンの花の絵の傑作は存在するのだろうか?」と疑い始めた。 少なくともセーヘルス、ヘーム、アールストなどの花の作品を凌駕するような作品は観ていない。これは奇妙なことである。むしろ、人物風景画、動物画などに特色のある作品が多く残っていると思う。たとえば、ハーグの「楽園の中のアダムとイブ」(ルーベンスとの合作)http://www.mauritshuis.nl/english/collectie/historiestukken/art/brueghel_rubens.jpg はいい作品だ。 また、右上にデテェールをあげた2002年に西洋美術館が購入した風景画も悪くない。
しかし、記録によれば、当時、ヤンの花の絵はとても高価であり、高く評価されていたらしい。 それなのに、それを裏付ける作品がみあたらない。

 なぜだろうか? 考えられる原因として、

  1. 傑作が隠れていて、私が未だ観ていないだけ。
      これなら嬉しい。未見のミラノのアンブロジアーナにある絵画は、ヤンのパトロンであったボロメオ枢機卿のコレクションであるから、かなり期待できるかもしれない。ただ、風景画、風俗画などではそれなりにいい作品が公表されているのに、なぜ、肝心の花の絵が 多くの美術館にないのか不思議なことになる。
  2. もともと傑作はなかった。
       ヤンは花の絵というジャンルの創始者であっても、大成者ではない。より後の世代によって技術的に洗練された作品を見ることのできる我々がより原始的なヤンの作品をみて失望するのはやむを得ない。東洋では、「古いほど素晴らしい」「先生は生徒より優れている」というような、芸術に対する退化論、黄金時代伝説がしばしば行われるので、古い人のほうが優れているように考えたがる傾向がある。
  3. 傑作はあったが、全て失われた。
      
  4. 私の審美眼が低級で、ヤンの作品を理解できない。   例えば、レンブラントの作品を、他の人が絶賛するようには感動できないという例があるのだから、自分に合わないからといって、傑作じゃないというのは可笑しい。
傑作はこれ!だという、教示を本当に得たいと思っている。