Chinese paintings in Boston Museum 観記

2000/3/16

横浜そごう  で1966年にBOSTON美術館宋元絵画 74点展示があった。 前期9/14-10/20 後期11/2-12/3 10:30--7:30

徽宗皇帝 五色オウム

parakeet (10/14-28) これは、それほど感激しなかった。

題詩は果たして本当に書いたものだろうか? なにか塗ったような感じがする。紙でなく絹のためかもしれません。 紙に書いた台北の牡丹詩はまことに良いものでしたが。

書の部分に墨の重なり、墨溜まりをみいだせなません。

いったいこれは、なぜでしょう。修理段階でかなり手をいれた のではないか?  もう一つの可能性は、ものすごく忠実なコピー です。どちらか、あるいはもっと他の理由かは、解りませんでした。 (1996/9/16鑑賞)

(伝)徽宗皇帝 搗練図

これは、感激した。こんなに派手派手で、しかも品格があるのは、 驚きだった。もとは金泥による模様がきらきらしてもっと派手派手だったはず。 昔、Clevelandの宮中図をみたときは、どうってことない とおもっただけに、この北宋画院の傑作には感服しました。

衣装は一見単色にみえるが、殆どが金泥、銀泥(白い服)で模様を描いてある それが殆ど剥落しているので、単色にみえるだけです。 当初の豪華をしるべし。 その模様は、正倉院・法隆寺などに伝わる唐代の錦に近いものである。唐画の模写 であることがうかがわれます。

また、右から2人めの女性のスカートにはおそるべき細密な模様が描いてある。 一種の雲気文であり他より古風でしょう。(馬王堆出土の前漢の乗雲繍をおもわせる。)

ところで、この模様は衣の局面やひだにあわせて変形していないものが多い。 殆どは平面的な模様になっている。これは、平安仏画の装飾とあまり変わりません。 線は墨あるいは顔料でかいてある。ただ妙手とおもわれる線と弱々しいものが ある。ただし、顔料が剥落して弱くみえることもあるかもしれません。

総じてびっくりするほど保存がいい。これだけ顔料がのこっていることだけでも 奇跡的です。 下部にはかなり破損修理箇所がある。左から2人目の背中をむけた女性のスカートの裾 は破れてしまっていて補絹してあるが、沓を描き忘れている。

金の章宗の題「天水模張萱搗練図」はうまい。本家の 徽宗皇帝よりうまいくらいだ。 御画の題記もないし、 徽宗皇帝が得意とした題材でもないので、 画院にいた名手のみごとな作品とみるべきでしょう。

右下の金の章宗の印「明昌宝玩」(右下)「内殿珍玩」(左下)「御府宝絵」(左上) については、いかにも雑だとおもったし、カタログでみただけだが、 「明昌御覧」 「群玉中秘」の大印も他の例とは違う印のようだ。まあ乾隆帝の場合 でも同じ文面の印を複数もっていたようだから、そう疑うこともないのかも しれません。 それに、遼寧省博物館には、これと全く同じ装丁形式、同じ印が同じところにおして あるもう一点の一流の絵がある。「天水模・張萱・カク国夫人遊春図巻」である。 これも、 章宗の題がある。形式が全く同じなので、この2巻はほぼ同じときに金の章宗のてもと にあったとおもわれる。これもまた、唐画の模写ということになっている。できばえは 少しおちるようです。

これは、岡倉天心が満州貴族からボストンのために購入したものだそうです。

  1. 上海人民美術出版社, 藝苑綴英, 第40期, p50-51, 1989

九龍図巻

陳容の唯一の真跡。 これは、まことに良いもので、オリジナル疑いなし。すぐそばに 同様の竜の巻物が展示されていたが、この作品とは格段の差がある。 特に渦巻く雲の描写は出色。 冒頭の題記も南宋の書としてなっとくのいくもので見応えがある。 3龍(龍はなんて数えるのだろう頭?匹?)しかみれなかったのは残念。 もっと長いケースが欲しい。11月にさらに3龍みました。

特に渦巻く雲の描写は出色で、これは筆ではなく刷毛かタンポかタオル のようなものでかいているようです。更に墨を飛び散らかした痕さえある。 。

冒頭の題記は米南宮  風の 見事な書。玉澗の題記よりさらに良い。 呉据  や 王庭いんをおもわせる。 紙は書用の繊維の粗い紙ではなく、瀟湘臥遊図巻にも使われている 緻密な微茶の紙である。

旧御物、Freer, Princeton, Metropolitan, にも同様の龍がありますが、あまりぱっとしない。

Nelson-Atkins美術館の断片がBoston本の次くらいでしょう。

藝苑綴英14期(1981)に広東省博物館の蘇庚春がBOSTON本を 「おそらく元人の模本であろう」 と述べています。ところが、蘇庚春が真跡だとしてあげている 「雲龍図」はBOSTON本と比べて著しく見劣りがするので、 この推測は到底受け入れられません。

まったく大陸の研究者の「我が仏尊し」と傲慢には困ったものだ。 絵だけでなく、この款記はまったく俗悪です。また、龍の脇の雷電はリボンの ようになっている。写し崩れでしょう。

また、[登邑]拓(元北京歴史博物館長 文革で死)旧蔵  にも同様の軸がある (同誌28期)。

ref.

  1. J. Chahill, Arts in Southen Song
  2. H. Musterberg, Dragons in Chinese Arts
  3. Sickman and Ho, Eight Dynasties of Chinese Paintings
  4. Metropolitan Bullutin、1981/1982
  5. 藝苑綴英14期(1981)
  6. 藝苑綴英28期
  7. 中国文物2 1981

雪山楼閣図・ 軸

大画面いっぱいにボリュームのある岩山を描くみごとな作品 です。台北の「范寛(11世紀) 行旅図]とくらべると、樹木や山頂の植物 の描写、さらに岩肌の描写が形式化しているので、 13世紀以前に制作された、范寛の原作の非常に忠実なコピーか、 范寛の弟子、追従者の作品ではないかと思いました。

ただ、范寛およびその流派の作品では、このくらい良いものは3点しか ないようです。前述の台北の行旅図(BEST),天津芸術博物館の雪山図 そして、このBoston本です。天津本は図版でみるだけですからちょっと 評価しがたいのですが、清初の優れた収集家 安儀周が激賞しているので かなりいいものではないかと思ってました。ところが、 藝苑綴英, 第39期の拡大カラー図版をみると、細部描写は、とても 台北の行旅図には及ばないようです。全体の構成はかなりよく 范寛の原作を伝えているようなので、忠実なコピーでしょう。

照明・かけてある位置 ともに悪く、片膝たてないとちゃんと鑑賞できないありさまなのは 残念でした。

細かいところはMuseum Scopeでさえみえない。そうとうすれてしまっているのでしょう。

  1. 上海人民美術出版社, 藝苑綴英, 第44期, 1993
  2. 安岐, 墨縁彙観
  3. 李霖林, 范寛研究
  4. Asiatic Arts in Fine-Arts Museum,Boston

王振鵬(元14世紀). 姨母育仏図

摩耶夫人が死んだあと叔母に育てられるシッダルタをえがいたもの。 精密な仏画で元の絵の特徴をよくあらわしています。 エキゾチックな模様や事物が多く興味深いものです。

透けた紗を丁寧にかいている。しかもその雷文風の模様まで緻密にかいてい る。 カーテンが重なったとき、後ろにまわったカーテンを淡墨で表している。 姨母の口のところにはすこし汚れがあり 唇の形が変にみえるのが残念。 衣に淡墨による隈どりがあります。

夏珪 風雨行舟 扇面

現在 異論のない夏珪の真跡はこれ一つです。他はすべて多少なりとも疑われています。

自然なものだし、サインもいいそうなので問題はないのだろうが、大感激の劇跡 というほどではない。intimeな感じのものです。

サインの墨色はまわりよりすこし黒い。

ref. K. Suzuki, Hsia Kuei... ,and atouched discussion Proceeding in Taipei, 1970

・馬和之 詩経図巻

これは  京都岡崎・藤井有隣館にある  詩経図巻のほうがいいようです。

ref. 古原宏伸 詩経図と孝経図 美術研究

・雪山行旅図 軸

丈の高い細長い画面です。右上に下手な字で李成雪山行旅という題が はいっています。このような細長い画面はびょうぶの1翼か、 大画面が損傷したため部分的に切りはなして保存した場合が多いので これもそういう部分品であろうと考えています。 したがって上部に大きな空白部があり、下部の山水がすこし窮屈なのも 不思議ではありません。

ひどく傷んでますが、12世紀に遡るのではとおもっています。

この図は、 戦前の日本の本でみたおぼえがある。下市静一の本だったかなあ。