張希黄について  

山科玲児 2012年8月


Boston Musum 中国の竹の彫刻技法に留青という技法がある。表皮を薄く残して彫刻し、残した表皮の部分と他の箇所の年代を経た変色の違いを使って模様を表す技法である。変色しなければタダの淺浮き彫りにしかみえないのだが、経年変化で薄い黄色と褐色に分かれる。 この技法で有名な作家に張希黄という人がいるが、年代・作品ともあまり確かでなかった。古い本では明時代ということになっているが、どうも違うようだ。

張希黄の年代について

記録がでてくるのは、清末の’李葆恂 旧学庵筆記’が最古であるから、話にならない。 2000年ごろに、下記のような推測をしたが、新資料の発見によって、60年遅らせた康煕末〜雍正というのが妥当のようである。
上海博物館の潘西鳳の留青菊華竹石図筆筒は下部と足部の処理が張希黄によく似ている 。 留青技術も共通する。潘西鳳は留青で有名な人ではない。もし、真作だとすると、張 希黄が留青の復興者であるとの伝承を考慮して、張希黄は潘西鳳の1、2世代前だとするのが妥当のようにおもう。技術の伝承を考えると、あまり潘西鳳と時代をあけるわけには いかないと思う。あくまで推測であるが。 も康煕と推定している。
上海博物館の2012年特別展カタログ 竹ロウ文心によると、「乙未六月之望」の紀年をもつ「杜甫詩意図臂擱」があり、かなり信頼がおけそうである。  下に上げた他の二点の紀年作が「壬子」「丁未新秋」であるから、この3つの干支で、不自然でない年代をさがす。つまり3つを含む期間が50年以上になるとか、戦乱中になるとかというようなものを避ける。そうすると、乙未(1715 康煕54年) 丁未(1727 雍正5年) 壬子(1732 雍正10年)というのが一番妥当である。 一回り遡ると乙未(1655 順治12年) 丁未(1667 康煕6年) 壬子(1672 康煕11年)であるが、まだ戦乱の余韻があるころである。こういう緻密・繊細・贅沢なものは、康煕末年の紅楼夢の時代のほうがよりふさわしいし、上記潘西鳳作品との類似も納得がいく。

張希黄の作品について

Boston (Percial David旧蔵)楼閣山水筆筒Wang & Weng, を試金石にして真作を 選ぶと次の物があげられる。
  1. Fine Art Museun of Boston (Percial David旧蔵) 楼閣山水筆筒Ref. Wang & Weng,ref. Wang & Weng,
  2. Freer Garelly of Art 帰田園居詩意 筆筒 葉義 et 譚志成
  3. Freer Garelly of Art 山水筆筒葉義 et 譚志成
  4. 上海博物館 山水筆筒 中国 美の名宝 ref.竹ロウ文心
  5. 上海博物館 山水臂擱 Ref. Li-Chu-Cheng ed., The Chinese Scholar's Studio,
  6. 永青文庫 竹林人物図筆筒 文具 1992実見
  7. Fairburn Collection 帰去来辞文字刻筆筒(壬子 の紀年銘を有する) Ref.Soanme R. Jenys and William Watson これは、張希黄でまれにみる信頼すべき紀年作である。壬子は1732年と推測する。
  8. 川崎個人蔵 山水臂擱 1993実見
  9. Blanchette Henriett Rockfeller 旧蔵 酔翁亭記筆筒
    1994 July Christie,NewYork
    Metropolitan Museum 所蔵ref.故宮学術preprint .
    豪華な山水人物筆筒。希黄(白文)印1印しかないのが疑問だが、 作風からいって問題は無いと思う。酔翁亭記全文を留青刻。「希黄」留青刻。高さ12.3cm。
  10. 英国Anthony Evans蔵 前赤壁賦(山水)筆筒ref.故宮学術preprint
    前赤壁賦全文を留青刻.[丁未新秋、鄂城張希黄]とある。真跡であるのが確かなら、 湖北省鄂城の人\footnote{または先祖が鄂城の人であった}で、1727の作と推測する。
偽作も勿論多い。無銘の竹刻にサインを後で入れたものがある。これは、サインが陰刻 だし、作品自体は名品であることが多いので、 結構楽しんで観ることができる。問題は始めから偽作目的につくったものである。 王世襄の「鑑識」 ref. Wang and Weng という論文のなかでは、偽作の例として任薫風の花鳥画 を刻した臂擱を挙げている。これは論外だが、いくつかみた問題のあるものには この臂擱(清末)と共通する特徴があるようだ。 おそらく清末に同一人によって大量に偽作されたものであろう。

Freer Grelley of Art所蔵 元の夏永の絹本画册に岳陽楼図と滕王閣図があるref. 元時代の絵画と工芸 Ref.James Cahill ed., Chinese Album Leaves, 。どちらも 精密な界画である。その図様は張希黄の作品と無関係とは思えないほど似ている。 時代が離れすぎてるが、この絵の系統の模写本や木版画にしたものを張希黄がみて参考にしたことは考えられる。

  1. .金西崖・王世襄, 竹刻芸術, 1980, 人民美術出版社
  2. .Wang-shi-Sheng and Weng go-Wang, Chinese Bamboo Carving, 1983, Chinese Institute of America
  3. .Li-Chu-Cheng ed., The Chinese Scholar's Studio, 1987 Thames and Hudson
  4. .葉義 et 譚志成, 中国竹刻芸術 I,  1978, 香港政庁
  5. .葉義 et 譚志成, 中国竹刻芸術 II,  1982, 香港政庁
  6. .竹ロウ文心 竹刻珍品特集, 2012, 上海博物館
  7. .徳彝(礼堂), 竹人続録 ,  民国19年 抗州古籍出版影印本 1983
  8. .金堅斎, 竹人録, 嘉慶12年, 抗州古籍出版影印本, 1983
  9. .中国 美の名宝 5, 1992, 日本放送出版会
  10. .故宮文物月刊 105, 1991
  11. .故宮文具精華 故宮博物院, 学研, 1972
  12. .故宮珍玩精華 故宮博物院, 学研, 1972
  13. .Museum of Fine Arts,Boston Asiatic Art 1982(日本語版には竹刻の図版、記述は無い。)
  14. .郭若虚,「図画見聞誌」, (第5巻), 人民美術出版社
  15. .東京国立博物館, 上海博物館展,  1993
  16. .中華書店, 三希堂と文房秘宝展,  1990
  17. .Soanme R. Jenys and William Watson, 中国工芸 美術出版社 1963
  18. .中国美術全集 11 木竹象牙 人民美術出版社
  19. .永青文庫, 文具
  20. .週間朝日百科, 世界の美術96, 元時代の絵画と工芸
  21. .James Cahill ed., Chinese Album Leaves, Smithonian Institution , 1961
  22. .若愚, 竹刻史話, 藝文叢輯26, 台北商務印書館 1973
  23. ., 故宮文物月刊144 英国蔵の竹刻, 1995
  24. ., 故宮文物月刊147 , 1995
  25. ., 清代前期竹刻藝術初探(PREPRINT) ,故宮学術季刊13-2, 1996
  26. .新潟・帯広・群馬美術館, 上海博物館 中国六千年の秘宝展 , 1994
  27. . , 明清竹刻藝術, 1999, 故宮博物院, 台北
  28. 東京国立博物館, 香港芸術館展, 1999, 東京(これは「葉義 et 譚志成, 中国竹刻芸術」収録コレクションの一部)
  29. .宮内庁, 東瀛珠光 1, 審美書院, 東京, 明治41年